婦人(おんな)はいつかもう
婦人(おんな)はいつかもう米を精(しら)げ果てて、衣紋(えもん)の乱れた、乳の端(はし)もほの見ゆる、膨(ふく)らかな胸を反(そら)して立った、鼻高く口を結んで目を恍惚(うっとり)と上を向いて頂を仰いだが、月はなお半腹のその累々(るいるい)たる巌(いわお)を照すばかり。
(今でもこうやって見ますと恐(こわ)いようでございます。)と屈んで二(に)の腕(うで)の処を洗っていると。
(あれ、貴僧(あなた)、そんな行儀(ぎょうぎ)のいいことをしていらしってはお召(めし)が濡(ぬ)れます、気味が悪うございますよ、すっぱり裸体(はだか)になってお洗いなさいまし、私が流して上げましょう。)
(いえ、)
(いえじゃあござんせぬ、それ、それ、お法衣(ころも)の袖(そで)が浸(ひた)るではありませんか、)というと突然(いきなり)背後(うしろ)から帯に手をかけて、身悶(みもだえ)をして縮むのを、邪慳(じゃけん)らしくすっぱり脱(ぬ)いで取った。
私(わし)は師匠(ししょう)が厳(きび)しかったし、経を読む身体(からだ)じゃ、肌(はだ)さえ脱いだことはついぞ覚えぬ。しかも婦人(おんな)の前、蝸牛(まいまいつぶろ)が城を明け渡したようで、口を利(き)くさえ、まして手足のあがきも出来ず、背中を円くして、膝(ひざ)を合せて、縮かまると、婦人(おんな)は脱がした法衣(ころも)を傍(かたわ)らの枝へふわりとかけた。
(お召はこうやっておきましょう、さあお背(せな)を、あれさ、じっとして。お嬢様とおっしゃって下さいましたお礼に、叔母さんが世話を焼くのでござんす、お人の悪い。)といって片袖を前歯で引上げ、玉のような二の腕をあからさまに背中に乗せたが、じっと見て、
(まあ、)
(どうかいたしておりますか。)
(痣(あざ)のようになって、一面に。)
(ええ、それでございます、酷(ひど)い目に逢(あ)いました。)
思い出してもぞッとするて。」
